日暮れの刻を、渇望しろ。









Digital Monster Xevolution-Side : Seek Night.






なんの前触れもなく、男――坂本信時(さかもとしんじ)は目覚めたらそこに迷い込んでいた。
場所の名をデジタルワールド。
データでその血肉を構成されている種・デジタルモンスターが住まう世界。


「……ああん?」


周りを見渡す。
デジモンと呼び、呼ばれるそのどれもが終わりのないゴール・安息の地を求めて逃げまどっていた。
とうの昔に絶滅したとされる恐竜に似ている赤き竜・ティラノモンの群れ。
同じく緑色の竜・トリケラモンの群れ。
その他、どれも坂本が目にしたことのない生物の群れが無秩序に混ざり合い、何かから逃げている。


「どこだよ、ここ」


しかし、坂本は焦ることなく冷静に思考を巡らし、ぽつりと一言呟いて今の状況を理解するよう努め始めた。
見慣れぬ土地。少なくとも自分が住んでいた日本という国ではなく、それどころか地球上なのかさえ疑わしい場所を見渡し、今の状況を理解することをやめて「帰ろう」と決断を下す。
帰る方法など、もちろん坂本は知り得ていない。
もう一度帰る方法について思考を巡らそうとしたその時、雷のような一瞬の光が辺りを包み、それを追うように爆音、爆風、土煙、熱が坂本を通り過ぎていく。

さほど近くにいなかったからなのか、坂本自身は無事であるものの、光が発せられた方向を見てみると無数のデジモン達が傷付き倒れていた。
それを見下すように上空に浮かぶ白き断罪の騎士・オメガモン。
神々しいその姿を、坂本は今何が起きたかを考えもせずに見とれていた。


「……」


こちらに気がついたのか、その白き騎士は坂本の前まで並ならぬスピードでこちらへ向かってくる。
坂本の目の前でオメガモンが急停止すると、ふわりと強めの風が周囲に流れた。


「ほぉ……人間とは珍しい」
「……」
「しかし、貴方も運が悪いな。もう少しでこの世界はユグドラシル様によって削除される」
「あん? あんた、いきなり何を――」


坂本が何かを言いかけると同時に、オメガモンはその場から真上へ行くように浮上し、こちらを向いて帰るための方法を教えてくれた。


「夜を待たれよ、その時にはきっとゲートが見つかる。まぁ削除にはもしかしたら間に合うかもしれん、この機会に命がけで運を試されては」
「――……」


言葉を待たずに去るオメガモン。


「互いに自己紹介ぐらいしとこうぜ……全く」


遠くへ飛行していく白い姿を見えなくなるまで見つめながら、坂本はぼやいた。


「夜……か。まぁ、ここが何処なのかあいつらが何なのか興味はない。削除だとか何とかも俺には関係ないっぽいしな。冷静に夜を待つとしよう」


言葉を発した後、やけに人間味のない台詞を呟いたものだと、坂本は少し自己嫌悪に陥った。





アテもなく歩いていると、坂本は無人の集落へ辿り着く。
既に集落に住んでいた住人は安息の地を求め逃亡した後だったので、名を知ることもなくその集落のねぐらの一つに坂本は無断で足を踏み入れる。
まぁ、断りを入れようにも既にそのねぐらにも人っ子一人見あたらないのだが。

坂本は藁の敷かれた床に寝そべり、夜が来るまで寝ることにした。


………………。
…………。
……。


「……ああん?」


どの位寝ていただろうか。
目覚めるとそこは、先ほど坂本がオメガモンと会話をした場所だった。





群がるデジモン達。
先ほどの爆発の跡もなく、まるで時間を遡って来たような感覚。
そんな奇妙な感覚に坂本は襲われていた。
否、感覚ではない。
思考しているものの、口は言うことを訊いてくれないのだ。


「どこだよ、ここ」


慌てて自分の口を抑える坂本。
そんな、これでは。
これではまるで――。

――そんな坂本を余所に、爆発は再び起きた。
死に絶えるデジモン達を見下すように浮かぶ断罪の騎士。
並ならぬスピードで目の前までやってくると、彼は言葉を発する。


「ほぉ……人間とは珍しい」
「……」
「しかし、貴方も運が悪いな。もう少しでこの世界はユグドラシル様によって削除される」
「あん? あんた、いきなり何を――」


口を抑えようとすれば、その手は無理矢理下げられ、オメガモンに向かって同じ言葉を発する。
今までにない恐怖に、間違いなく坂本は捉えられた。
全く同じ映像が繰り返される。
まるで映像をリピートしているかのように、厭に客観的な観点でそれを感じ取る坂本。


「夜を待たれよ、その時にはきっとゲートが見つかる。まぁ削除にはもしかしたら間に合うかもしれん、この機会に命がけで運を試されては」
「――……」

言葉を待たずに去るオメガモン。


「互いに自己紹介ぐらいしとこうぜ……全く」


遠くへ飛行していく白い姿を見えなくなるまで見つめながら、坂本はぼやいた。


「夜……か。まぁ、ここが何処なのかあいつらが何なのか興味はない。削除だとか何とかも俺には関係ないっぽいしな。冷静に夜を待つとしよう」


言葉を発した後、やけに人間味のない台詞を呟いたものだと、坂本は少し自己嫌悪に陥った。
坂本の中にあった、繰り返しているという認識は既に消え去っていた。





アテも無く歩いていると、坂本は一匹のデジモンが座っている岩場まで辿り着いた。
全身に包帯を巻いたミイラのような姿・マミーモン。
何故か気兼ねもなく、坂本はマミーモンに話しかける。


「夜まで暇を潰したいんだ、相手をしてくれないか」
「……! あんた人間か。何年ぶりだろうな、人間を見たのは」


坂本と出会ったことを嬉しく思ったのか、満面の笑みを浮かべるマミーモン。
いくら不気味な姿でも、その笑みを見た坂本はマミーモンに好感を覚えた。
互いに自己紹介し、談笑する。
坂本の頭の中に「帰る」という文字が消えかかった頃、世界は赤い夕日に包まれた。


「もうこんな時間か。ありがとうマミーモン。おかげで退屈せずに帰れそうだ。お前も削除されないように早く逃げた方が良い」


誠の親切心で、坂本はマミーモンに助言すると、マミーモンは急に顔をしかめて坂本を睨み付ける。


「帰る……? はっ、帰るだって? 誰も帰しはしねえよ、久々の餌だ……逃がさねぇ!」


つかの間に出来た友人の豹変ぶりに驚いた坂本は思わず逃げ出した。
追ってくるマミーモンに脇目も振らず、ただ一心に逃げ出す。
夜になれば帰れる、その思念だけで。
走り続けている坂本は、マミーモンがもう追ってきていないことにも気付かず、息が上がっているのも気にせずに逃げ続けた。
疲労しきった身体はやがて崩れ落ち、坂本は倒れ込んだまま気絶した。





繰り返している。
何度か、別の因果で意識を失っては、坂本は同じ光景を繰り返している。

「夜を待たれよ、その時にはきっとゲートが見つかる。まぁ削除にはもしかしたら間に合うかもしれん、この機会に命がけで運を試されては」
「――……」

言葉を待たずに去るオメガモン。


「互いに自己紹介ぐらいしとこうぜ……全く」


遠くへ飛行していく白い姿を見えなくなるまで見つめながら、坂本はぼやいた。


「夜……か。まぁ、ここが何処なのかあいつらが何なのか興味はない。削除だとか何とかも俺には関係ないっぽいしな。冷静に夜を待つとしよう」


言葉を発した後、やけに人間味のない台詞を呟いたものだと、坂本は少し自己嫌悪に陥った。
何度目かわからないやりとりを続ける内に、坂本は繰り返す度に記憶がリセットされるようになった。
今度も、アテもなく歩いている坂本の頭上を、何かが高速で通り過ぎていった。


「……夜……?」


直後、休息に闇に覆われていく青き晴天。
坂本が望んだ夜がやっと――。


「は……はは、夜だ……夜だ! 帰れる、帰れるぞ!」


星灯りのない闇を見つめていると、何かがうごめいていることがわかる。
空を覆うほどの赤き飛竜・デクスドルグレモンの大群。
夜が来たのではない。
異常な数のデジモンが、陽を遮ったに過ぎなかった。
それに気付かずゲートの出現を待つ坂本の背後から、デクスドルグレモンの一匹が食いついた。





ふりだしにもどる。



Digital Monster Xevolution-Side : Seek Night.
END Less Repeat Days.


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