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 2004年、8月2日深夜。
 高校に入って初めての夏休みを、有里真 大希(ありまだいき)は友人3人と共に楽しんでいた。
 もちろんここに居る全員が全員、親に内緒で家を抜け出してきてるわけだが、
 未だ知らぬ夜の世界への好奇心と、イタズラをしているような興奮が親に対する背徳感を打ち消していた。
 
 「ちょっとダイキ、待ちなさいよ!」
 
 口調は怒っているものの、顔はにこやかに笑っている大希の幼馴染み、巳柳 千晴(みやなぎちはる)。
 
 「ま、待ってぇー……はぁ、ひぃ」
 
 眼を回しながら必死に大希に追いつこうとするクラスメイト、往乃 綾香(ゆきの りょうか)。
 
 「大希、最近夜中は物騒なんだからあんまはしゃぐなって」
 
 後方でゆっくり歩きながら冷静に周りを見ている中学校からの大希の親友、隆崎 弥之介(たかさき やのすけ)。
 
 
 この四人は同じ高校、同じクラスで、大希つながりですぐに仲良くなったグループである。
 大希の明るい性格も手伝ってか、面識のない千晴の友達である綾香もすぐにグループに溶け込んだ。
 このグループでつるみ始めてから今日まで、ずっと一緒に居る。
 大希にとってこのグループは、友達以上のかけがえのない存在になっていた。
 
 ◆
 
 
 デジモンアトラクターズ
 World 1 Real-World
 Attract1 『Heart less origin.』
 
 
 ◆
 
 俺が走り出すと、しばらく鬼ごっこの様な状態が続き、俺が駅前の広場のベンチに腰掛けた事を合図に全員で少し休憩することになった。
 
 
 「皆が遅いんだってぇの、全く。せっかくの夜遊びだぜ? 何も遊べるところねーけど、何か楽しくなってくるじゃんか!」
 「だからってはしゃぎ過ぎよ、綾香が疲れちゃったじゃないの」
 「ひぃ、ひぃ……ん、だ、大丈夫、千晴ちゃ……私疲れて…………ないよォ」
 
 
 肩を上下に揺らし、汗も滲んでいるのも気にせず、もしくは気付いていないのか往乃は笑顔を作った。
 疲れているのは見え見えなのだが、恐らくその笑顔は嘘では無いと思う。
 無理矢理誘ったようなもんだし、楽しんでくれてるならちょっと安心かな。
 足は遅いけどな。
 
 
 「しっかり疲れてるじゃないの、もう……。ね、だからダイキ、もうちょっとテンション下げなさいよ?」
 「お、おう。わ、悪かったな往乃」
 
 
 全然悪びれた様子もないが、(取り敢えず謝っておこう)と脳裏に過ぎった俺は、一応往乃に対して謝罪の言葉を入れておいた。
 ……や、まぁなんか、千晴に怒られそうだったし。
 
 
 「はは、おいおいテンション上がってはしゃいでんのは千晴、お前もだろーが」
 
 
 唯一歩いていた弥之介が追いついてきて、ゆっくりとベンチに腰掛ける。
 そして手に持っていたスポーツドリンク入りのペットボトルを開けて、流し込むように飲んで更に続けた。
 
 
 「なんだかんだ言って、お前が一番楽しんでるよ千晴」
 「う、うっさいわね、何だって良いじゃない! 楽しいのは楽しいんだからっ」
 「お、あっさり認めやがったな、はは」
 「もうっ」
 
 
 なんというか、最近弥之介は千晴を弄くるのが楽しいのか、こういう光景をよく見る。
 まぁいつも千晴に怒られている分、見ていてスカッとするので俺としては大歓迎なんだが。
 
 
 「はぁ、ひぃ、ふぅ、ひぃ……ん……んぅ」
 
 
 そんな二人に注目していると、往乃が俺の隣に移ってきた。
 未だに息切れしているのか……流石に心配になってきた。
 
 
 「お、おい、マジで大丈夫か? 悪ぃ、俺加減知らなくて……」
 
 「う、ううんっ、そんなことないよ! ぜん、全然大丈夫だからっ、だから、だから大希君は全然悪く無いよ! うん、ぜん、ぜん、ぜん、全然悪くないから」
 
 「そ、そか、さんきゅ……んで、どした? 相談でもあるのか?」
 「え……え? な、何でカナ?」
 「何でって……お前が俺の隣に移ってきたから」
 「……っ!」
 
 「おっ、おいおいどうしたんだよ、顔真っ赤だぞ! ホントに大丈夫か? 今から家帰ってもいいんだからなっ?」
 「だ……だいじょ、大丈夫……大丈夫だよォ」
 
 
 えへへ、と俺に笑って見せる往乃。
 しかし本当に大丈夫なんだろうか。
 もの凄い真っ赤だけど……どうしたんだろうか。
 そんな俺達を見て、弥之介と千晴は肩を揺らして笑いをこらえていた。
 
 
 「何か面白いもんでもあったのか?」
 
 「やべ……べっ、あー、べ、べ……べ、別に、何でもねえよ。なぁ千晴?」
 「う、うふふ……ふ、う、う、うん、なんでもないなんでもない」
 
 「……?」
 
 
 変な奴ら。
 まぁいっか、楽しいし。
 俺もつられて笑いそうになるけれど、何かが爆発するような音でそれは掻き消された。
 駅前ロータリーの方角だ。
 
 「なっ、なんだぁっ!?」
 
 急いでベンチから立ち上がって、ロータリーへと下る階段まで駆けつける。
 今の音、尋常じゃない……なんだっていうんだ。
 
 
 「て、て、テロ……って事はないわよね」
 「まっさか……でも、気になるな」
 「あ、ま、待って……!」
 
 
 皆が口々に何か喋りながら俺と同じように階段の上まで走ってきた。
 そして俺と皆が一斉に見た光景。
 それは……得体の知れないもの同士の、激しい戦いだった。
 
 
 「……俺、ちょっと階段降りてみるわ」
 「ちょ、ちょっと……本気なの!?」
 
 「当たり前だろ、あんな面白そうなもん、間近以外で見られるかってんだ」
 
 「あ、危ないと……思う」
 「まぁ危ないな、往乃の言うとおりだぞ大希」
 
 
 目の前に広がっている光景。
 それは得体の知れないもの……恐らく、恐らくだけど……デジモン同士の、戦いだった。
 
 
 「危険なんか承知だって。ありゃぁデジモンに違いねぇよ……本物のデジモンなんだ!」
 
 「デジモン……デジモンって、あの『デジタルワールド〜神秘との出会い〜』って本に出てきた怪物の事よね……! ダイキ、あんた高校生にもなってあんなの信じてたの!?」
 「あれ、千晴知らなかったのか? 大希の奴、あの本は家宝だって言い張るぐらい惚れ込んでるぜ」
 
 
 黄緑色の模様が特徴的な、ズボンを穿いたマシンガン両手に嵌めた二足歩行の犬っころ。
 角がごっつい茶色の仮面をかぶったオレンジ色の恐竜。
 黒と青のツートンカラーの電気を使うとにかく馬鹿でかい虫。
 ここからじゃ少し見づらいけど、何だか手袋をしたさっきのに同じく二足歩行の白い猫。
 この4匹が、各々が各々に攻撃し、攻撃されていた。
 四つ巴の戦闘。
 見たこともないその生き物たちはロータリーを中心に、信号機やバス停の屋根など様々なところに乗り移ってスピーディーに闘っている。
 
 
 「とにかく、近くで確かめない手はないぜ……っ、ちょっくら行ってくる!」
 
 
 我慢しきれない。
 凄い、凄い、凄い!
 夢にまで見たデジモンだ。
 本に出てきた、本当のデジモンなんだ!
 
 
 「まっ、待ちなさいってば!……っ、もう、知らないからね!」
 「お、おい! 千晴、大希っ……ったく、往乃、お前ここで待ってな」
 「え、あ、わ、わ、私も行きます!」
 
 
 ◆
 
 
 4人は走り出す、4匹の戦場へ。
 ……深夜の戦いの中、ロータリーの先にある信号機の更に奥に、巨大な渦がまいていた。
 途端、その巨大な渦は更に巨大になり、4匹のデジモンを吸い込んでいく。
 その渦には無人のタクシーや、放置自転車をも巻き込んでいく。
 
 
 「「「「うっ、うわああああああああああああああああああああああああああああああっ!」」」」
 
 
 ――4人の少年少女も、また然り。
 
 Attract1『Heart less origin.』 END
 
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