◆ 彼らはデジタルモンスター、略称をデジモン。 ネットワーク上のどこかにあると言われる『地球の裏側・デジタルワールド』という場所に、彼らは存在する。 ほぼ全ての人間が生まれてから死ぬまで、地球でのみ生命活動を続けていると思うのだが、この前までは私も例外なくその一人だった。 デジモンと呼ばれる彼らが住むこのデジタルワールドへ、何の間違いがあったのか私が来てしまったのだ。 なんと説明すればよいのか分からないが、冒険家としての血が騒ぎ、私ははしゃいだ。 データで構成されている神秘の様な存在・デジモン達と出会えたことに、子供のように喜んだ。 彼らのその歪な姿に恐れもせず、私は彼らと戯れ、現実世界に帰ってきた今でもデジタルワールドと、そこに住むデジタルモンスターという存在を愛している。 この愛を自分だけが感じるのはもったいない。 そう思い至りこの本を執筆することにした。 多くの人にこの愛を受け取って貰えますように。 ――ベストセラー『デジタルワールド〜神秘との出会い〜』(著・切椰嗣哉)冒頭部より抜粋―― ◆ デジモンアトラクターズ World 2 Eternal-Sun set Attract2 『Resolution.』 ◆ 「俺達が帰るために……か」 弥之介がそう呟いた。 先ほどまで各々が自分勝手なことをしていて、弥之介以外テリアモンが言う『重要な話』となるものを聞き逃しているかと思われていたのだが、俺、千晴、綾香の三人は話が始まると弥之介の周りに座り込んで、話を聞く体制に入ったのだ。 その重要な話、と言うのを語るには約5分前に遡る。 ――テリアモンがその可愛らしい小柄な身体を大きく見せようとしているのか、話を始めると共に胸を張って、人差し指(?)を立てながら一生懸命に重要な話とやらを説明している。 「そう、重要な話。それも極めて重要、君たちの人生の今後に関わることだぜ。なんてったって、このデジタルワールドから帰れるかどうか、って話だからな。ボクの話はしっかり聞いておいた方が身のためだからね」 「あ、やっぱり此処がデジタルワールドなんだな」 「うん、『地球の裏側・デジタルワールド』だね。まぁそれで君らが帰る方法。それは一つしかない」 「一つって……またお約束な」 今はもうみんなが聞く体制に入っているからか、興味のある俺と話す立場のテリアモン以外口を開かず、静かに俺達のやりとりを聞いている。 「お約束でもなんでも、一つしかないものは一つしかない。帰る方法はズバリ、バラバラになったこのデジタルワールドのどこかにあるゲートをくぐるだけ、なんだ」 「ちょっと、バラバラになってるってどういう事だよ」 「詳しいことは分からない、でも3時間程前に突然世界はバラバラになって、特徴あるデータを残した、もしくは失った世界がいくつも島のように点在する状態になったんだ。その影響でわずかな歪みが生じ、ボクらは現実世界へ渡り、その縄張りを確保するために争ったんだ。だけれどその歪みが閉じる時、ボクらは再びデジタルワールドへととんぼ帰りし、その時に君たちが巻き込まれたってワケで。それで、現実世界と此処をつなぐゲートがある場所へは、今までは普通に行けたんだけど、デジモンは通れなかったし、なんにせよバラバラになったこのままじゃゲートがある場所まで行くのも一筋縄じゃ行かない。そこでダイキ、チハル、ヤースケ、リョウカ、君たちには<世界を紡ぐ旅>を強いらなければいけなくなった」 「――<世界を……紡ぐ旅>」 「そう、世界を紡ぐ旅。全部とは言わない、このバラバラになったデジタルワールドの欠片をつなぎ合わせて次の欠片へと渡り、それを繰り返す。そうすればバラバラになった世界も少しとはいえ元に戻せるし、ゲートが見つかればそのまま帰ってくれて構わない。正にボクらの利害が一致した旅なんだ。もちろん君たちだけで行けとは言わない、ボクらがこの世界のナビゲーターになる。これが重要な話、君たちが帰る唯一の方法にして、ボクらの世界を救う手伝いもして貰える一石二鳥の話だ。で、どうする?」 これで5分後の今に戻るってワケだ。 俺達は互いに顔を合わせ、難しい顔をしながら今後についての話を簡潔に始めた。 「どうする……つってもなぁ」 「帰るためにはやるしかないんでしょお? はぁ、この馬鹿に付き合ったばっかりに……」 「でも、大希君だけの所為じゃ無いですから……」 「何迷ってんだよ皆、行くしか無いだろ、こんな面白そうなの!」 「「面白いとか言う問題じゃないってぇの」」 弥之介と千晴にハモって叱られたが、結局の所やるしかないと言うのは皆が解っているようだった。 全員が息を合わせて同時に頷き、俺が率先してテリアモンに告げる。 「おし、オーケ。こっちは行くしかないんだ、よろしく頼むぜテリアモン」 「危険はもちろん伴うんだよ? それでも行くんだね」 「何度も言わせるなって、テリアモンが言ったんだろ? 行くしかない、って」 「そう言えばそうだったね。うん、これから宜しくダイキ」 「危険上等。やってやるぜ、<世界を紡ぐ旅>!」 俺とテリアモンは大きさが違いすぎるお互いの手を握り合い、協力の意を示す。 その言葉を合図に、アグモン、テントモン、プロットモンも嬉々として(約一匹は渋々が正確か)それぞれに挨拶していく。 「皆さん、よろしくだ」 「よろしくお願いします」 「はぁ………………よろしく」 丁度4人と4匹だし、一人一匹相棒みたいな感じになるんだな。 なんとなく、なんとなくだけどプロットモンは往乃の相棒確定の様な気もするが。 握手してる手前、俺のパートナーはテリアモンだとして……。 「千晴、お前パートナー選ぶならアグモンだろ」 「えっ! な、なな何でダイキなんかにそんな事がわかるのよ!」 「いや、お前虫苦手だし」 「うあっ……うう」 テントモンのわざとらしい「ガーン」と言う台詞が寒く森に響く。 めでたく一人一匹、誰が誰を相棒にするかが決まったわけだが、さて――。 「――これから、どうすればいいんだ?」 「取り敢えず、ここら辺の情報を統括してるジジモン夫婦の所にいこう。ボクらもよくお世話になるデジモン達でとっても優しいんだ」 「そのデジモンさん達はどこにいるんですか?」 早速プロットモンを抱き上げながら続けて質問する往乃の顔は、微妙にニヤけている。 するとその質問に答えたのはテリアモンではなく抱き上げられているプロットモン。 やはりその答え方は嫌みったらしいのだが。 「はじまりのまちって雰囲気が無駄に明るい所だ。もっとも、この世界の影響で今は日が昇らないから全体的にうざったい空気なんだろうけど……ふん、何で僕がこんな事を説明しなきゃいけないんだ」 「それじゃ、取り敢えずそのはじまりのまちって所に行こうぜ。大希もそれでいいだろ?」 「あぁ、そうしよう。千晴もそれで大丈夫か?」 「う、うん……とりあえずこの気味の悪い森から早く出たいな、あたしは。電光掲示板が埋め込まれてるなんて絶対変よ、変」 プロットモンの嫌そうな顔も相当なもんだが、千晴のこの場所に対する嫌悪感もたっぷりの様だ。 居たくないという気持ちが顔を見るだけでひしひしと伝わってくる。 各々がはじまりのまちへ行くことの了解をすると、羽を広げたテントモンが先頭に来て、皆を誘導するようにゆっくりと前へ進み出した。 「はい、決まりですね。それじゃぁオレが案内するんでついてきて下さい」 「電光掲示板があるから案内なんていらないけどね」 プロットモンの余計な一言が無ければ、その場は丸く収まっていただろうに。 微妙な空気が全体を包んだまま、俺達一行は進んでいく。 電光掲示板の明かりが照らす、闇夜の密林地帯を。 ◆ テントモンが誘導する大希達一行が迷わずの森を抜けると、変に近代的な光景が目の前に広がっていた。 「あれ……ここ」 「う、うん。でも、どうして……」 「おいおい、冗談じゃねえぞ」 そう、目の前に広がっていたはじまりのまちの光景は、大希達が見慣れすぎた街が植物に浸食された不気味なものだった。 「……ここ、俺達が住んでる街じゃねえか」 日が昇らぬ世界の欠片の世界にあるその街の名をはじまりのまち。 デジモンという生命が生まれ、また還ってくる場所。 そのまちは、大希達がつい先ほどまで夜遊びをしていた、大希達の地元の姿とうり二つだった。 ここははじまりのまち。 世界の情報と生命が集まる、唯一無二の安全地帯。 Attract3『Resolution.』 END Go to Next Episode Attract4. |
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