◆


「そういえば、ジジモンの家にあった、デジヴァイスが置かれてた祭壇って5つあったよな? ディアトリモン……だっけか、あの鳥に交番ごと崩されちゃったけど、大丈夫なのか?」


世界の欠片の端に、大希達は居る。
目の前にはどこか近隣の世界の欠片へ移動すると言う、なんともいい加減な設定が施された『ゲート』が存在している。
ドーナツ型と言えばいいのだろうか、そのゲートは二つの輪が重なり、輪と輪が逆方向に回転しながら浮遊している奇妙な光景だった。

ただ、その奇妙な世界の端に浮遊するゲートを除けば、周りはぞっとするような光景しか広がっていないのだが。
目を凝らせば見えるほどの無数の小さな0と1の羅列が、黒塗りの背景に描かれている。

まさに壁と表現しても差し支えのないソレは、世界を取り囲むように並んでいて、上を見上げれば空さえもその壁は区切っている。
孤立した世界という現実を、否応なしに実感させられる場所で、大希達は座り込んでいた。


「最後の祭壇にデジヴァイスがそなえられてた所、ボクは見たこ
と無いけどね」
「それじゃぁ……元々無かったのかもしれないな」

「大希、無駄口叩いてないでさっさとやっちまおうぜ。≪ジョグレス≫って奴を」
「あ、あぁ、そうだな。えぇ……っと――」


弥之介の呼びかけに応じ、ゲートの前に仁王立ちするようにデジヴァイスを構える大希。
ゲートは普段デジヴァイスに格納できるようになっているらしく、世界と世界を紡ぐ度にデジヴァイスからそれは現れるとジジモンの説明を思い出すように、大希は同じくジジモンに教わった“貫通式”を唱える。



「――紡ぐモノ紡がれるモノ。それら、あるべき姿へ……ワールドゲート・ジョグレス!」



直後、ゲートは異常な光量を自身から発し、黒塗りの壁を浄化するようにひろまっていく。
すると、一部だけとはいえ世界を隔絶していた壁が取り除かれ、新たな道が開けた。
ゲートはそう何度も開けられるモノではなく、ある程度の力を要する。

それは『Experience』――経験と言う名の力。
原理は解らずとも、経験を積めば次なるゲートを開く力は戦うたびに蓄えられ、新たな世界を紡ぐ。
そう、この世界を紡ぐ旅と戦闘は、切っても切り離せぬ重要な関係に位置付く。
その歪んだシステムは、デジヴァイスを持った4人の子供達の帰路は長く、険しいことを言葉にせずとも物語っていた。

……世界が開けると、はじまりのまち、迷わずの森を含む此処、Eternal-Sun setに雨が降り始めた。




今確かに、二つの欠片は紡がれた。




   ◆


デジモンアトラクターズ
World 2 Eternal-Sun set is Skip.

World 3 Desertification-Rain
Attract1 『Suitable for little by little.』


   ◆


「砂……漠?」
「地面は濡れてないみたいだけんど……雨がふってるだな」


千晴とアグモンがぽつりと感想を漏らす。
ゲートがデジヴァイスに収縮され一息ついた大希も、はじまりのまちに次いで異様な光景を目の当たりにして、言葉を失った。


「ふみ……砂漠なのに、雨が降ってるんだ」
「その割に地面が湿ってないみたいですね……」

「しかも舗装された道があって、雨よけの屋根まで付いてるのもおかしいけどな。砂漠と言えばファイル島にはギアサバンナしかないけど、こんな感じだった覚えは僕にはないよ」


ギアサバンナ。
プロットモンの口からそう聞くと、大希は≪例のあの本≫の内容を思い出す。


(確か、雨が降らない灼熱の大地で、その大きさはとてつもない……じゃなかったっけか)


それでも、目の前の砂漠には雨が降っている。これがこの世界の欠片の、特徴。
紡がれたばかりのギアサバンナの舗装されている道を一歩踏みだし、砂を一握りすくい上げる。
濡れた感覚はなく、さらさらと手のひらをこぼれ落ちていったり、手のひらに雨粒がぽつぽつと落ちてくるのを見て、一つの推測が大希の頭を過ぎった。

砂が湿っていない理由――それは、雨がこの砂に触れると砂になっている、という大希自身でも解らなくなるようなややこしい仕組み。
声に出して皆に説明するのも面倒なので、頭の中に止めておくことにした。


(この仕組みがあるからどうって訳でも無いし)

「とりあえずこんな所で立ち止まってても仕方ないし、さっさと前に進んじまおうぜ」


弥之介がそう言うと、舗装された道を歩き始める皆。
司会進行役と言う言葉が似合うんだろうか。
無駄を嫌い、冷静に物事を判断し、率先して状況を動かすよう努める弥之介も、偶然とはいえ大希はこの旅に巻き込まれてくれて少しラッキーだと思っている。
弥之介が居なかったら、きっと彼らは立ち往生を繰り返して、それだけ帰るのが遅くなっていた事だろう。


「それにしても、見れば見るほど変な感じよね……」
「これからもこういう変な場所が俺達の目の前に現れるなら、慣れるしかねえさ」


変に達観した弥之介の言葉にカチンと来たのか、千晴は弥之介に対し反論するように捲し立てた。


「なっ、何よっ、そんな言い方すること無いじゃない! あたし達まだ此処に来て数時間しか経ってないのよ? こっちは必死に受け入れようとしてるのに、そんなの慣れてる方がどうかしてるわよ!」

「おっ、おい、千晴」
「千晴ちゃん……」


他のデジモン達は気まずそうに黙り込んでしまい、暫く重い空気がその場に漂っていた。
確かに、千晴の言うことも一理あるし、もちろん弥之介の言うことも解る。
お互いすれ違う意見ではあるけれど、正しいことを言っているだけに間に入れない自分が大希はとても苛立たしく思えた。


「どうかしてる……か」


自嘲気味に笑う弥之介。
その言葉を最後に、俺達は全く喋らなくなった。

そんな重苦しい空気が支配するなか、舗装された道がふたつに分かれた場所が見えてくる。
暫く歩いた結果、久々に景色が多少なりとも変わった事によって気持ちが軽くなったのか、今まで押し黙っていた大希の頭の上に乗っているテリアモンが話しかけてきた。


「どっちに行くのダイキ?」

「右よ」
「左」


タイミングを見計らったかの様にハモる弥之介と千晴を前に、軽くなりかけていた雰囲気が蒸し返す。


「な……なぁ」
「何よ」
「何だよ」

「いや……意見が分かれるなら話し合わないか。ガキじゃないんだし、しっかり話し合ってどっちに行くか――」


大希が二人を説得している合間に、さっさと右の道へ歩を進めてしまう千晴。
こちらを振り返って「あっかんべー」をして不機嫌そうな顔を露わにする。
それを見た弥之介が、真顔で大希に「ガキだったみたいだな」と言うと、その場は完全に凍り付いた。


「……っ! いいわよガキで! とにかくあたしはこっちに行くんだからね、来なさいアグモン!」
「お、落ち着くんだなチハル――」

「ア・グ・モ・ン!」
「わっ……わかっただよ……」


とぼとぼとチハルの元へ歩いていく哀愁漂うアグモン。
3人と3匹が、それぞれに思いを巡らしながらその姿を見ていた。


「千晴ちゃん! やっぱり話し合った方がいいよォ……っ」
「千晴、戻ってこい! っ、……弥之介も止めてくれよ」
「……そうだな――千晴、悪い。さっきのは俺が軽率――」

「きゃぁっ!?」


――突如別たれる道。
爆音と共に屋根を突き破って落ちてきたものは、トゲのような岩だった。


「グゥルルル……」
「「「「っ!?」」」」


千晴とアグモンが大希達から隔離されたのを見計らうかのように、土色の獣が雨降る砂漠の地中から這うように出現する。
その背中には落ちてきた岩と同類のモノがびっしりと詰めるように生えている。
一見、亀の様な姿のそれに付いている緑色の両目が、孤立した千晴達を静かに見据えていた。


   ◆


雨降らぬ灼熱の大地、ギアサバンナと言う名の砂漠が存在する。
この広大なギアサバンナを歩き抜く事が出来たのは、奇跡と言うべきだろうか。
否、当然と言うべき理由が確実に存在した。
そこには砂漠という場所に相応しくない、舗装された道が延々と端から端へと巡らされているのだ。
だからこそ、歩くのに不自由は無い。
だが、そこにはトータモンという、普段は地中で過ごす怪物が居た。

奴もまた、デジモンの一種なのだが……出くわすと奴ほど厄介なモノもそう居ないだろう。
無数の岩という名のミサイルを背中に背負い込み、倒さぬ限り舗装された道を破壊してでも追ってくるのだ。
だから私は奴の事をこう呼ぶとしよう――砂漠の追跡者・デザートチェイサーと。


――ベストセラー『デジタルワールド〜神秘との出会い〜』別冊・『ギアサバンナ漂流録-上』(著・切椰嗣哉)より抜粋――


Attract6 『Suitable for little by little.』END
Go to Next Episode Attract7.

Attract7『Trust in their friend.』

Top